t-miyazooの宇宙日記

宇宙ビジネスと仕事について書いていきます

宇宙関連企業リサーチ「株式会社ispace」

株式会社ispace
株式会社ispaceは「宇宙資源の活用し、地球と月をひとつのエコシステムとする持続的な世界の構築」を目標に掲げ、2010年9月に設立された企業である。

代表取締役CEOの袴田武史氏のもと、200名を超える社員が集まり、2022年11月30日17:39(日本時間)にはHAKURO-Rミッション1の打ち上げが予定されている。(2022年11月25日、記事執筆時点)

公式サイト(M1打ち上げカウントダウン中)

ispace-inc.com

ここで少し月面環境について触れたいと思う。

月は言わずと知れた地球唯一の衛星であり、人類が到達したことのある唯一の地球外天体である。

地球からの距離は約38万kmであり、光の速度で約1.3秒かかる。

重力は地球の約6分の1だ。

実は、月は徐々に地球から遠ざかっており、1年あたり約3.8cmずつ離れていっている。

そんな月は、大気がほとんどないため昼夜の温度変化が激しく、昼では約110℃、夜では-170℃と、なんと200℃以上もの差がある。

月面はレゴリスという砂礫に覆われており、その厚さは数cmから数十mにものぼる。
このレゴリスの粒子の大きさはおおよそ50μmと非常に細かく、宇宙服や精密機械などに入り込みやすく、度々問題を起こす。

その様な過酷な月面であるが、人類はこれまでに12人の宇宙飛行士が月面に降り立っている。

そのすべては、アメリカ航空宇宙局(以下、NASA)のアポロ計画によるもので、そのうち15号では初めて「月面車」が使用され、27.76kmにわたる広範囲の地質学的調査を行った。

その後、1972年のアポロ17号で計画のすべては終了した。

時は経ち2004年、当時のアメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュは演説の中で、2020年までに宇宙飛行士を月面に到達させることを含む新たな宇宙開発の展望の「コンステレーション計画」を発表したが、2010年、バラク・オバマ大統領によりその計画は中止されることとなる。

そんな中、2007年から2018年にかけてGoogleがスポンサーとなり、民間による最初の月面無人探査を競うコンテスト「Google Lunar XPRIZE(グーグル・ルナ・エックスプライズ、略称GLXP)」が開催された。

GLXPは勝者のないまま終了したが、最終フェーズまで進んだチームのひとつが「HAKUTO」であり、その運営を行ったのが「株式会社ispace」である。

ではなぜ、ispaceは月面を目指すのか。

公式サイトではこのように記されている。

地球でのより豊かで持続的な生活は、人工衛星を中心とした宇宙インフラストラクチャー無しでは成り立たなくなってきています。通信、農業、交通、金融、環境維持など様々な産業が宇宙インフラに依存しています。今後、IoTや自動運転などが発展するとともに、さらに宇宙インフラの重要性が高まります。

では、宇宙インフラを、持続的かつ効率的に構築していくにはどうしたらよいのでしょうか?

キーとなるのが、宇宙資源の活用です。

私たちispaceは、月に着目しています。月に眠る貴重な水資源を活用して宇宙インフラを構築し、人類の生活圏を宇宙に広げていく。そして、地球も月もひとつのシステムとなり、宇宙インフラを軸とした経済が地球で住む人々の生活を支え、持続性ある世界を実現する。これが私たちの究極の目標です。ispaceが最初に取り組む月での水資源の探査は、その目標への出発点です。

株式会社ispace 公式サイトより

先に述べたとおり、月面は非常に過酷な環境であり、まだ不明な部分も多い。

しかし、1990年代頃から「月には水がある」ことが示唆されるようになり、実際に月の極付近にある永久影(常に太陽光が当たらない領域)に水の氷が存在することが確認された。

そして2020年、NASA成層圏赤外線天文台「SOFIA」を用いた赤外線観測により、太陽光に照らされた場所にも水が存在することを突き止めた。SOFIAは、ボーイング747-SPを改造し、口径約2.7mの望遠鏡を搭載した空飛ぶ天文台である。

SOFIAが観測したのは月の南半球にあるクラビウスクレーターの中で、SOFIAに搭載されている微光天体赤外線撮像器「FORCAST(Faint Object infraRed CAmera)」が水分子に特有の波長6.1μmの波長をとらえ、クラビウスクレーター内の砂に水が存在することを発見した。

明らかになった水の含有量は100~412ppmとごくわずかではあるが、影となっている場所だけでなく日が当たる場所にも水が発見されたことで、月全体に水が広く存在している可能性が出てきたのだ。

人が生きていくには水が必要だ。それは地球でも月でも宇宙でも変わらない。

更に、水を水素と酸素に分解することで、呼吸用の酸素やロケットの燃料を確保することができる。

月の水の存在は、人類がより遠くの星へ向かうための重要な要素になるのだ。

***

月面探査は現在、「アルテミス計画」によって再び人類を月面に送ろうとしている。

「アルテミス計画」とは、NASAが提案している月面探査プログラムのことであり、2025年以降に月面に人類を送り、その後、ゲートウェイ(月周回有人拠点:月面や火星に向けた中継基地)計画などを通じて、月に物資を運び、月面拠点を建設、月での人類の持続的な活動を目指すものだ。

日本やアメリカを含む8か国は、この計画を推進するため、「すべての活動は平和目的のために行われる」ことなどをはじめとしたアルテミス合意にサインした。

このように、現在、月面探査は再び注目を集めている。

そんな月面探査と人類の活動圏を広げる取り組みを行う「株式会社ispace」に、これからも期待していきたい。

自動車業界人からみた宇宙ビジネス。PlayStationを添えてー

ゲームのイメージ
皆さんは、「SONY」と聞くと何を思い浮かべるだろうか。

SONYウォークマンPlayStationといった製品を生み出した日本を代表する企業であるが、近年では「VISION-S」の研究開発やHONDAとの戦略的提携など、モビリティ業界へのアプローチが盛んだ。

現在の自動車業界は、脱炭素化(カーボンニュートラル)や環境課題への意識の高まりによるニーズの変化、半導体不足に起因する生産調整など、激動の時代を迎えている。

特に「CASE」という考え方が急速に広まり、その対応が活発化している。

CASEとは、
Connected・・・・・コネクテッド(インターネットへの常時接続)
Autonomous・・・・自動運転
Shared & Services・・シェアリングとサービス-カーシェアリング
Electric・・・・・・・電動化
を指す英語の頭文字からとられており、自動車の次なるカタチを指している。

さて、この「CASE」において「情報通信」が非常に重要だということにお気づきだろうか。

簡単に説明すると、個々のモビリティの状況を遠隔地でも正確に把握し、効率良く利用するために常にインターネット上で情報のやり取りを行うのである。

さて、それらの情報を私たちが見たり活用したりするときには、スマートフォンを利用するだろう。

このスマートフォンで聞きなじみのある5Gは無線通信システムを指しているが、次世代の方式として期待されているのが6Gだ。6Gとは、第6世代移動通信システム(6th Generation Mobile Communication System)の事を指し、その特徴を「超高速・大容量」「衛星を介した海、空、宇宙での通信」としている。

つまり、手元のデバイス直接人工衛星と情報通信をするということだ。

ここで使用される人工衛星は「衛星コンステレーション」を構築しているが、この人工衛星同士の通信を光によって行おうと取り組んでいるのがSONYなのだ。

衛星コンステレーションとは、多数の人工衛星を軌道に投入して協調した動作を行わせ、システムとしての目的を果たすというものであり、GPSやインターネットアクセスなどで使用されるシステムである。

コンステレーションという言葉は星座を意味し、人工衛星の配置の様子をさながら星座に例えてそう呼ばれる。

2020年4月23日のJAXAのプレスリリースによると、

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(理事長:山川宏 以下、JAXA)および国立研究開発法人情報通信研究機構(理事長:徳田英幸 以下、NICT)と株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長:北野宏明 以下、ソニーCSL)は、国際宇宙ステーションISS)の「きぼう」日本実験棟に設置した小型光通信実験装置「SOLISS」(Small Optical Link for International Space Station)とNICTの宇宙光通信地上局(以下、光地上局)※1との間で双方向光通信リンクを確立し、Ethernet経由での高精細度(HD)画像データ伝送に成功しました。これは、小型衛星搭載用の光通信機器としてEthernetによる通信を実現した世界初の事例となります。

出典:JAXAプレスリリース「小型光通信実験装置「SOLISS」が宇宙と地上間の双方向光通信に成功」

www.jaxa.jp

とある。

JAXASONYは、2016年より、JAXA宇宙探査イノベーションハブの研究提案の枠組みを利用して、将来の衛星間や地上との大容量リアルタイムデータ通信の実現を目指し、共同研究を行ってきた。光通信部にはSONYが長年培ってきた光ディスク技術が使用されている。

光には電波と比べて高速大容量の通信を可能とする特長があるため、今後の宇宙空間における地球周回軌道を始めとした衛星間や地上との超高速(低遅延)データ通信や、大容量リアルタイムデータ通信の実現や汎用化などが期待される。

PlayStationの技術が宇宙空間で活かされていると想像すると、なんだか感慨深い。

ゲーム業界ではeスポーツなどが盛り上がりをみせているが、そこで問題となる「レイテンシ」と呼ばれる通信の「遅延」の解消も期待される。

まさに、車もゲームも宇宙なしには語れない時代になった。

SONYは近々「STAR SPHERE」というサービスもローンチする計画だ。

これは、2022年の打ち上げを目指す人工衛星を利用して「宇宙写真や動画」を撮れるというものだが、一番の特徴は、その人工衛星をユーザー自身が操作できるという世界初のサービスである点だ。

宇宙とつながる体験を通じて、人生観を変えうる「宇宙の視点」を体感することも出来ます。

「STAR SPHERE」公式サイトより

としている。

「STAR SPHERE」公式サイト

かつてウォークマンを開発し、「音楽を持ち歩く」というイノベーションを生み出したSONYの次なる活躍に注目だ。

※この記事では「ソニーグループ」を指して「SONY」としています。
 また、いかなる企業や団体の活動や実績を保証するものではありません。

宇宙機器開発におけるJAXA設備の利用について

筑波宇宙センターのロケット広場
出典:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

はじめに

私の記事を読んでくださる方の中には、人工衛星やロケット構成部品を作っている方や、これから作ろうとしている方もおられると思う。

そのような方たちに向けて、JAXAの設備利用について私が体験したことをまとめたので、参考になれば幸いだ。

また、宇宙産業に関わりの無い方でも、JAXAがどのような取り組みを行っているのかをお伝えし、その活動に興味やご理解を得られたら嬉しく思う。

JAXAとは

JAXAとは「国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(うちゅうこうくうけんきゅうかいはつきこう)」のことであり、英語表記の「Japan Aerospace Exploration Agency」から頭文字をとって略称とし、JAXA(ジャクサ)と呼ばれている。

国内外に事業所や施設を持ち、国内は「本社・調布航空宇宙センター」を筆頭に、北から
・大樹航空宇宙実験場
能代ロケット実験場
・角田宇宙センター
・臼田宇宙空間観測所
・筑波宇宙センター
・地球観測センター
・東京事業所
・相模原キャンパス
・勝浦宇宙観測所
名古屋空港飛行研究拠点
・上斎原スペースガードセンター
・美屋スペースガードセンター
・西日本衛星防災利用研究センター
内之浦宇宙空間観測所
・増田宇宙通信所
種子島宇宙センター
がある。

能代ロケット実験場の関連記事はこちら↓

t-miyazoo.hatenablog.com このうち、私は「筑波宇宙センター」の設備を利用した。

筑波宇宙センター

筑波宇宙センターは1972年に開設され、筑波研究学園都市の一画の約53万平方メートルの敷地に、最新の試験設備を備えた総合的な事業所である。

JAXAが推進する活動のうち、
●宇宙からの目となる人工衛星の開発・運用およびその観測画像の解析
●「きぼう」日本実験棟を用いた宇宙環境利用や、宇宙飛行士養成と活動推進
●ロケット・輸送システムの開発と、技術基盤確立のための技術研究推進

を行っており、日本の宇宙開発の中核センターとしての役割を果たしている。

筑波宇宙センターの全景
出典:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

筑波宇宙センター JAXAホームページはこちら↓

www.jaxa.jp

設備と利用申請について

設備の利用に関しては、(株)エイ・イー・エスJAXAとの契約に基づき筑波宇宙センター「環境試験設備等の運営・利用拡大事業」を運営しており、この(株)エイ・イー・エスに問い合わせをして設備の利用を申請する。

(株)エイ・イー・エス ホームページはこちら↓

www.aes.co.jp

筑波宇宙センターの利用可能な設備をご紹介する。
・S-1.衛星試験棟
 電磁適合特性試験設備
・S-3.6mΦ放射計スペースチャンバ棟
 6mΦ放射計スペースチャンバ
・S-4.8mΦチャンバ棟
 8mΦスペースチャンバ
 1mΦスペースチャンバ
・S-10.総合環境試験棟
 13mΦスペースチャンバ
 大型振動試験設備
 小型振動試験設備
 1600㎥音響試験設備
 6トン質量特性測定設備
 10mアライメント測定設備
 大型分離衝撃試験設備
 クリーンルームエリア使用
・C-3.構造試験棟
 旋回腕型加速度試験設備
 18トン振動試験設備
・C-4.小型衛星試験棟
 小型衛星用振動試験設備
 小型衛星用スペースチャンバ
 小型衛星用質量特性測定設備
・C-9.磁気試験棟
 磁気試験設備
・W-1.電波試験棟
 電波第1試験設備
 電波第2試験設備

私は「1mΦスペースチャンバ」を利用した。

筑波宇宙センターの構内マップ
JAXAホームページより

1mΦスペースチャンバ

そもそも、スペースチャンバというのがどのようなものかというと、「真空試験」を実施する設備である。

宇宙業界でいう「真空試験」について説明すると、宇宙空間というのは真空(気圧が無い)であり、そのような地上とは全く違う環境を模擬することで、宇宙空間で使用される機器や装置が正常に動作するかどうかを試験する設備である。

1mΦスペースチャンバは筑波宇宙センターを入門しE-1.総合案内所で受付を済ませたあと、歩道に従って南西方向へ進み、S-3.6mΦ放射計スペースチャンバ棟S-5.誘導制御試験棟の間にある歩道に入ったところにあるS-4.8mΦチャンバ棟の中にある。

1mΦスペースチャンバは1階に設置してあるが、真空状態にしたり大気圧に戻すのに時間がかかるので、そのための待機室が同じ建物の上階にあり利用することができる。

1mΦスペースチャンバはカプセル型のステンレス製で、片側が円形状の蓋になっており、ここから内部にアクセスすることができる。

内部は二重構造になっており、内側面は黒く塗装してある。

エイ・イー・エス社のホームページによると、

設備概要
1mφスペースチャンバは、地上で宇宙空間の高真空、冷暗黒を模擬する設備です。 この設備で宇宙機の熱設計の評価、耐環境性の確認を行うことができます。 高真空環境を模擬するため、極低温ヘリウムガス(20K)が循環するクライオポンプが用いられています。 冷暗黒環境を模擬するために真空容器内面に沿って液体窒素が循環する黒色のパネル(シュラウド)が用いられています。 また、クリーンブースによる清浄度管理が可能であるため、小型衛星等のフライト品の熱真空試験にも対応可能です。

設備仕様
真空容器形状:横置円筒形
真空容器内部寸法 シュラウド使用時:1,000mm(径)×1,380mm(長)
         シュラウド不使用時:1,280mm(径)×3,200mm(長)
到達圧力:1.3×10-3Pa(CP使用時)
シュラウド温度:100K以下(扉部・鏡部除く)

”(株)エイ・イー・エス ホームページ”

とある。

シュラウド使用時には、この二重構造の内側に供試体を設置することとなる。

クリーンブースでは、前室で防塵服、シューズ、キャップを装着することで、クリーンブースの中に入ることができる。

クリーンブース内からスペースチャンバの蓋を開けることで、スペースチャンバ内部での作業ができる。クリーンブースは大人2人と供試体を持ち込むのには十分なスペースがあるが、3~4人が入って作業するとなると多少窮屈と感じるかもしれない。

休憩など

お昼の休憩では、C-2.厚生棟内にある食堂やセブンイレブンを利用することができる。
このセブンイレブンヤマト運輸の集荷に対応しており、ヤマト運輸の宅急便で送れるサイズの物品であれば、ここから発送することができる。

あとがき

この記事は、私が利用した2021年時点での体験を基にしています。
最新の状況についてはJAXAへお問い合わせのうえ、ご自身にてご確認ください。

宇宙関連企業リサーチ「SPACE COTAN株式会社」

宇宙関連企業を調べてご紹介したいと思う。

今回は「SPACE COTAN株式会社」だ。

SPACE COTAN株式会社は、北海道広尾郡大樹町字芽武183番地1にオフィスを構える2021年4月に設立された企業で、設立時の資本金は7,600万円。小田切義憲氏が代表取締役社長兼CEOを務めている。

公式サイトはこちら↓

hokkaidospaceport.com

「わたしたちがつくりたいのは、人類の未来です。」をビジョンに掲げ、事業内容を、大樹町からの委任に基づくHOSPOのプロジェクト推進業務全般や宇宙産業促進に向けた自主事業等としている。

株主は、大樹町、インターステラテクノロジズエア・ウォーター、川田工業、帯広信用金庫十勝毎日新聞社北海道新聞社などだ。

HOSPO(ホスポ)とは

HOSPOとは、「北海道スペースポート」のことで、北海道大樹町にある世界中の民間企業・大学研究機関等が自由に使える、シェアするスペースポート(宇宙港)だ。垂直打上げロケットの実験や打ち上げ、併設を計画する3,000滑走路でスペースプレーンの試験も可能としている。

宇宙港とは、宇宙へ行くための港のこと。宇宙港には、大きく分けて2つの役割があり
①宇宙に行くための拠点
②地球上の移動の拠点

という、宇宙旅行客や宇宙飛行士の離着陸、衛星や物資の運搬とそれにともなう物流、観光などの拠点となることが期待されている。

日本にはその他にも、
和歌山県串本町の「スペースポート紀伊
大分県国東市
沖縄県下地島

があり、世界中では70か所以上が実行していたり計画していたりする。

HOSPOのある北海道大樹町の特徴は、35年以上前から宇宙都市として取り組んでおり、民間企業の参入も多いことだ。
大樹町は現在人口5,400人ほどだが、ここでしかできない仕事、ここでしか経験できないことがあるとして移住者が増えていている。
宇宙産業誘致の波及効果は年間267億円、観光客も17万人増えるという試算もあるほどだ。

ちなみに、社名にある「COTAN(コタン)」とは、アイヌの「集落」または「部落」のことを指し、北海道に位置し地域ぐるみの産業にしようという意図を良く表している。

田切社長はどんな人?

そんなSPACE COTAN株式会社を率いる小田切社長は、全日本空輸の元社員で元エアアジア・ジャパンの社長などを歴任し、地域創生プロジェクトにも関わってきた。それらの経験を生かし、「宇宙版シリコンバレー」構想を描いている。

ITmedia ビジネスオンライン トップインタビュー」の中で、小田切氏は次のように述べている。

エアアジア・ジャパンのCEOを退任した後、もともと所属していたANAのグループ会社であるANA総研に入りました。そこでは、ミャンマーに航空会社を作りましょうといったプロジェクトに入ったり、空港を中心とした地域創生にも関わったりしていました。

 ただ、どこの町や空港と取り組んでも、観光コンテンツを磨き上げましょう、おいしい食事、ご当地ならではのおいしいものを提供し、そしてそこに温泉があれば、それも楽しんでもらいましょうと観光産業のみなんですよね。でもそのように一本足打法のリスクとして、まさに今回のようにコロナ禍で全然お客さんが来なくなってしまうわけです。

 観光産業だけに依存するのは厳しいなっていうのは、ずっと分かっていました。

 今回この「北海道スペースポート」の話に参画しないかとお話を伺ったときに、宇宙産業を主軸として挑戦して、そこに観光や教育そして、その他さまざまな航空宇宙関連産業がついてくることが面白いと思いました。今まで日本のどの自治体もできていなかったことができるかもしれないなと思って、この仕事を引き受けました。

 

出典:ITmedia ビジネスオンライン トップインタビュー エアアジア・ジャパン元CEOが、北海道大樹町で挑む「宇宙版シリコンバレー」構想

宇宙産業促進の取り組み

SPACE COTAN株式会社は、2021年より開催されている「北海道宇宙サミット」の実行委員会にも名を連ねている。

北海道宇宙サミットは、「宇宙とあらゆる産業との繋がりをつくる日本最大級の宇宙ビジネスカンファレンス」として、昨年(2021年)は2,600人、今年(2022年)は現地参加者とオンライン参加者を合わせて4,700名が参加し、成功裏にその幕を閉じたイベントだ。

宇宙産業に取り組む人達の貴重な交流の場ともなっている。

現地の様子は、こちらの記事をご参照いただきたい。↓

t-miyazoo.hatenablog.com

宇宙産業、2040年に市場規模100兆円は本当か

昨今、特筆すべき成長をみせる宇宙ビジネスであるが、その成長のひとつの指標として「世界で2040年に市場規模が100兆円になると予測されている」というのがある。

どうしてそのように言えるのか、集めた情報の中から考えてみる。

誰が「100兆円」と言っているか

2022年1月14日付けの経済産業省製造産業局宇宙産業室「第1回宇宙産業プログラムに関する事業評価検討会 中間評価/終了評価 補足説明資料」によれば、モルガン・スタンレーによると、宇宙ビジネス全体の市場規模は、2017年の37兆円から2040年までに100兆円規模になると予測されている。」とある。

また、2022年6月16日付けの「週刊 経団連タイムス 宇宙産業の動向と経産省の取り組み」の中では、「2040年の世界の宇宙産業の市場規模は、現在の約3倍の100兆円を超えると見込まれている。」との記述がある。

先日開催された「北海道宇宙サミット2022」の中でも同様の発言があったし、現在の宇宙産業従事者1万2千人も今後増えていくだろうと述べられていた。

主観だが、100兆円になるかどうかではなく100兆円にするといった、現場の覚悟がある。

現在の日本の状況

ここで、現在の日本の状況をおさらいしよう。

産業の全体像

社団法人 日本航空宇宙工業会「令和元年度宇宙産業データブック」によれば、現在の日本の宇宙産業は、
1.宇宙機器産業
2.宇宙利用サービス産業
3.宇宙関連民生機器産業
4.ユーザー産業群
から成っている。

1と2の合計は約1.2兆円の規模であり、政府は「宇宙基本計画(20年6月閣議決定)」で、2030年台早期にこれを倍増させる目標を掲げている。

世界のロケット打ち上げ回数

2021年の国別のロケット打ち上げ回数をみてみる。

1位 アメリカ 66回
2位 中国   49回
3位 ロシア  28回
4位 インド   9回
5位 欧州    6回
6位 日本    2回

日本はロケット先進国と比較して、大きく溝をあけられている状況だ。

日本の課題

日本が抱える課題もおおまかにまとめる。

JAXAが主導する宇宙ステーションやH2Aロケットなどで一定の存在感を示すが、産業力向上には結びつかずに終わっている。それは競争力強化に必要な標準化や実績づくりをしてこなかった背景もある。

②宇宙空間は極限環境であるため宇宙機器の運用者は過去の打ち上げ実績を重視するが、欧米やロシア、中国やインドなどは政府調達を通じて打ち上げ実績を獲得している。一方で日本国内は恒常的な衛星調達が限られていることもあり、実績作りと標準化を行う機会が少ない。

今後の見通し

衛星利用は先進国・新興国問わずに拡大し、従来の通信・放送だけでなく、地球観測やデータ利用が拡大する。

具体的には、災害監視、環境観測、農林漁業、国土管理、資源探査、安全保障などが挙げられる。

日本も、
・衛星コンステレーション構築
・衛星データ利用
スペースデブリ対策
で、その市場に先んじようとしている。

世界の様子

先にもある通り、日本としても宇宙産業の対する意気込みは感じられるが、その取り組みとして欧米は大きく先に行っているイメージである。

特に民間企業の宇宙産業への参入が顕著だ。

イーロン・マスク率いる「SpaceX」やジェフ・ベゾスの「Blue Origin」、ポール・アレンの「Stratolaunch」やリチャード・ブランソンの「Virgin Galactic」の活躍はすでにお聞き及びのことだろう。

すでに「衛星コンステレーション」プレーヤーとしての立場を築いているものもある。

2030年、2040年にむけて

文部科学省の2021年1月18日付け「第4回将来宇宙輸送ロードマップ検討会」資料によれば、「2030年にむけた宇宙市場セグメント別の動向と変化点」において次の様にまとめ、「今後10年間で宇宙市場の多様化と拡大が同時に起きていくことが予見される」と述べている。

出典:文部科学省 2021年1月18日 「第4回将来宇宙輸送ロードマップ検討会」資料
また、この資料では2040年の市場規模を波及効果も含めて「160兆円」と予測している。

まとめ

宇宙産業の拡大のためには、市場の裾野を広げていくことが重要

現在の日本各地にスペースポート(宇宙港)を建設しようという動きが活発化している。

宇宙港とは、ロケット発射場を中心として、その利用客や従業員の滞在したり生活するための施設や娯楽を含めて地域ぐるみの環境を整えようというものだ。

そこで販売されるお土産や、提供される食事、各種サービスも含めて宇宙産業と考えることで、その市場は拡大を加速できるだろう。

タイトルには「100兆円は本当か」と書いたが、もちろん実際に2040年にならなければ本当かどうかは分からない。

しかし、100兆円に達するロードマップはすでに描かれ、参入するプレーヤーも増加していることは事実だ。

ひと昔前には映画の中でしか目にしなかった光景が現実になっているのと同じように、今は絵空事のように思えることが現実になる未来も、そう遠くはないのかもしれない。

「地上燃焼試験」体験レポート【後編】

地上燃焼試験のイメージ
出典:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

前編に引き続き、ご注意

機密保持などの理由から試験の詳細はお話しできません。技術的な内容というより、少しでも宇宙を身近に感じもらうための体験記としてお楽しみください。

 

「地上燃焼試験」体験レポート【前編】はこちら↓

t-miyazoo.hatenablog.com

本記事で使用している一部の画像は、「JAXAデジタルアーカイブス」に収録されているものであり、JAXAの許可を得て掲載しています。

また、画像は地上燃焼試験を分かりやすく伝えるためのイメージとして掲載しており、本記事でご紹介している地上燃焼試験とは関係の無いものも含まれています。

試験現場の雰囲気

試験にはおよそ100名の作業者が関わっており、管制や制御、保安や記録などの班に分かれて、各々、職務を全うすべく作業に取り組んでいた。

全体で3週間ほどの試験期間中に、所属も立場も業務もそれぞれに違う人たちが「試験の無事成功」というひとつの目的に向かって一丸となって取り組む風景は、独特の一体感と仲間意識を芽生えさせるには十分な環境だった。

私自身の業務は、わずかばかりの集中力とコミュニケーション能力、大胆さがあれば、技術的には誰でもこなせる(リハーサルもあるので安心。リハーサルまでであれば何度だって失敗できる)ものであったが、周りにいる方々はその経歴から能力まで一級の人たちばかりである。

JAXAの会見でNHKの放送に出演するような方が普通に隣にいらっしゃる訳だが、東京大学を卒業して、衛星の運用プロジェクトなんかを実行していた経験をお持ちで、その経験談たるや何回飲み会をやっても聞ききれないだろうと思えた。

技術的にもコミュニケーション能力的にもレベルの高い、まさに業界トップクラスの方がゴロゴロいる中ではあったが、不思議と緊張感は無かった。

皆がひとつの目的を達成するために活動しているから、達成のためにはありとあらゆる手段を尽くす。そこには人間的なフォローも含まれていて、安心感がそこにはあったように思う。

人間味あふれる印象深い点を、2つあげようと思う。

①試験本番直前の「記念撮影」
何か記念すべき事柄の前に関係者が集まって記録写真を撮るのはよくあることだと思うが、まさにそれが行われた。

100名あまりの関係者がロケットを背景に写真撮影をするのだが、それぞれ担当する業務が違えば作業する場所も違うため、意外とひとつの同じ場所に集まる機会というのは多くない。

「もう少し中央に寄ってください!」や「○○さんの顔が見えません!」といった言葉が飛び交う風景は学生時代のそれと同じで、その後ろに数億円の物体が横たわっていて、これから行われる試験の意味、そしてその結果が遠からず我が国の国力に影響するものだとはにわかに信じがたい、ゆるい光景であった。

②「Go/No Go」で一喜一憂
ひとつ断わっておくが、「それはそうだ」なのである。

先にもお伝えした通り、日本トップクラスの人材が過密なスケジュールを縫って集まっているのである。試験場自体にも試験に適した「シーズン」というものがあるため、そのような時期は予約でいっぱいだ。

試験が1日延長されることのコストを考えると、Go(試験可)かNo Go(試験不可)かは皆が一番気になるところだ。とはいえ、現場では信頼性の高い風向き予測サイトに張り付いて、準備の進行状況に余裕があれば、ひたすら「やるのか?やらないのか?」を作業者同士で言い合っているのである。

最終的に「Go/No Go」は試験責任者が決めるのだが、私たちも実際に何回かの「No Go」を経験した。その度に「○○日までに帰れるかな?(飲み会があるから)」といった会話が飛び交っていたのは、重要な試験であっても「それを実行しているのは人間だ」という感じで親近感が湧いた。

このように、緊張感と人間らしさが同居する環境の中で試験の準備は着々と進んでいく。

試験本番

(以下、機密事項が多く写真がありません。豊かな想像力でイメージしてください)

**********************************

ヘッドセットを装着し、ヘルメット被る。
安全のために指定区域には進入してはいけない。

X(点火時刻)が近づくにつれて、集中力を上げていく。

所定のタイミングで計測機器の電源ON/OFFをコールする。
計測開始のスタート/ストップをコールする。
計測数値を読み上げる。

班のリーダーと視線を交わし、阿吽の呼吸をとる。
・・・非常停止ボタンは・・・押さない!

点火までのカウントダウンが計測室を駆け抜ける。

3、、、
2、、、
1、、、
0、、、
バッ、ゴォォォ~~~

点火の瞬間、雷が連続で鳴ったかのような轟音に包まれた。
実際の雷と違うのは、轟音が多少の地響きと共に低い位置、そう腰のあたりを這うように聞こえているということだ。

燃焼の雰囲気はテレビで見るロケット発射と全く変わらない。「本当に同じだ」というリアリティに妙に感心した後は、思っていたより粛々と進んでいく周りの状況に冷静さを取り戻す。

かくして燃焼は終わった。。。

えっ!?もう終わり?

準備や意気込みの量に対して、燃焼本番はあっさりというか、最早止められないので進むしかないといった若干の体育会系的思考で進んでいった。

燃焼の瞬間というのは監視用のカメラで撮影したものをリアルタイムでモニターできるが、私は計測データがグラフとなって右から左へと流れていくパソコンの画面を注視することが職務だったため、点火の瞬間は後に録画で見ることになった。

簡単に言えば火事である。

入念に巻いたアルミとガラス繊維の防燃材が、点火の閃光と衝撃のなか、剥がれ、舞い上がり、炎に包まれて、黒焦げになるのを眺めていた。

ロケットの飛翔に必要な、勢いのある噴射の時間は数百秒といったところで終わるのだが、その後も残った燃料が燃え続けたり、前述のように周囲のものに延焼したりと、黒い煤をともなったオレンジ色の炎がそこら中に散っていた。

しばらくすると保安要員である消火班が現場に出向き、消火活動を行う。
その終了と安全確認をもって我々は初めてロケットが横たわる現場への立ち入りが許可されるのだが、今回はこの消火に思いのほか時間がかかった。

というのも、風向きが微妙に変化したことで、本来は日本海側へまっすぐ飛んでいくような火の粉たちが試験場側へ舞い戻ってきてしまい、その辺に生えていた植物などを一部焼いてしまった。

消火班が右往左往するのを監視用のモニター越しに見ていた。

しばらくの後、立ち入り禁止が解かれロケットのそばまで行く事ができたが、日常では関わらないようなものが焼けた匂いが周囲に漂っていた。

防燃材があらゆるところに飛散し焼き尽くされていたため、我々が計測に使用した通信ケーブルなどの状態が心配だったが、幸いなことに思っていたより焼損はなかった。

感動的な出来事はその少しあとで、我々は燃焼が終わってから初めてロケットエンジンのノズル(の中)を見る事ができた。

点火直前まで、ロケットエンジンのノズルはカバーがかけられていた。損傷はもとより、湿度からも燃料を守っていたのである。

ノズルの形状や接続については高度な技術が使用されており、機密な部分も非常に多い。まさに門外不出。

しかし、それも今や丸焦げである。とはいえ、技術の最先端に最接近できたのは心躍る体験だった。

その後、同じ班で作業をしていたJAXAの方と個人的な記念撮影もさせていただいた。その写真は今も宝物だ。。。

片付けと撤収

現場の雰囲気は「お祭りのあと」と同じだ。

多少のトラブルはあっても、人的な損害は無し。
試験の無事成功という安堵感を感じながら、スケジュールという気配に背中を押され取得したデータの確認と整理、そして報告を行う。

それらがひと段落するまではロケットに触れてはいけないのだが、それらが終了すれば現場の片付けに入る。

並べた機材を輸送用の梱包箱へ丁寧に仕舞い、何本ものケーブルを巻取り束ねていく。

担当する業務ごとに片付けのスピードは違う。
約3週間、苦楽を共にし同じ空気を吸った仲間たちが少しずつ帰路につき、試験場の人気も少なくなっていく。

あの燃焼に熱狂した雰囲気も日本海から吹く風にさらわれ、少しずつその温度を落としていった。

その夜・・・

携わった作業班のメンバーで、「反省会」と呼称するささやかな食事会が開かれた。

和やかな雰囲気とはいえ、ミスの許されない仕事が山積していた試験場では話せなかったような話しをした。

どうして「宇宙」の仕事をするようになったのか。
これからどうしていきたいのか。
どうなっていくのか。

それぞれに意見を言い合い、冗談を言ったり励ましあったり。
ときに真面目なビジネスの話しも。

時間と体力が許す限り続いた「反省会」は、そこにいる人たちの「宇宙」に対する熱い思いの現れだったように思う。

こうして、能代市での地上燃焼試験な日々は終わりを告げた。

あとがき

前編後編に渡り、数分で読めてしまう内容であるが、日本国内でもあまり経験することのない「地上燃焼試験」の臨場感が少しでも伝わっていたら幸いだ。

そして、成長産業である宇宙業界に少しでも興味を持っていただけたら、この上ない喜びである。

指令室の窓辺(黒塗り部は写せない)
宇宙が舞台の映画のキャラクターグッズが並んでいる

 

「地上燃焼試験」体験レポート【前編】

 

地上燃焼試験のイメージ
出典:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

この記事は

読者のみなさんは、「地上燃焼試験」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

地上燃焼試験とは、ロケットの開発段階で行われるロケットエンジンの性能を確認する試験である。

日本ではJAXA宇宙航空研究開発機構)などが試験場を保有しているが、その試験の性質上、万が一の事故が起こっても人命に被害が無いように近隣に住宅が無いことや風向きなどの気象条件が考慮され、そのひとつが秋田県能代市に設置されている。

今回は、私が体験した「地上燃焼試験」についてお伝えしたいと思う。

前もってお断りするが、機密保持などの理由から試験の詳細はお話しできない。技術的な内容というより、現在、世界的に急激に関心が高まっている宇宙業界を少しでも身近に感じてもらえれば嬉しいという動機のもとの体験記として読んでいただけると幸いである。

ご注意

本記事で使用している一部の画像は、「JAXAデジタルアーカイブス」に収録されているものであり、JAXAの許可を得て掲載しています。

また、画像は地上燃焼試験を分かりやすく伝えるためのイメージとして掲載しており、本記事で取り扱っている地上燃焼試験とは関係の無いものも含まれています。

ロケットってなに? 地燃ってなに?

そもそもロケットというのはいくつかの種類があるが、ここでいうロケットとは「化学ロケット」のことで、燃料を燃やして噴射することで飛翔するロケットである。

ロケットには加えて、その噴射の向きを調整する機能もあったりする。

ロケットは打ち上げ直後から風などの外部影響を受けて飛んでいく。狙った位置へロケットを飛ばすためには、その推力や方向などを精密に制御する必要があり、「地上燃焼試験」とはそれらの要求仕様が満たされているかを確認する試験でもある。

化学ロケットに分類される固体燃料ロケットの「イプシロンロケット
イプシロンロケット」は日本の基幹ロケットのひとつ
出典:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

スケジュール

地上燃焼試験のざっとしたスケジュールは以下の通りだ。

ロケット搬入

試験装置へ設置、計測機器のセッティング

防燃対策

リハーサル

点火、燃焼

消火活動

結果評価

撤収

地上燃焼試験はいくつかの企業や組織が一堂に会して実施する場合があり、今回はそのパターンである。

スケジュールにもよるが点火本番は風向きに大きく左右されるため、前日から天気予報に釘付けになる。

試験中、幾度となくお世話になったリアルタイム天気予報サービス「Windy

一旦点火してしまうと後戻りできないうえに、1回の試験では作業員のスケジュール調整からその費用まで、相当なお金と時間がかかっているので、本当に試験を実施して良いのか悪いのかをその直前まで吟味し続ける。

前日の天気予報が良好であれば一旦解散となり、当日の点火予定時刻から準備時間を逆算した時刻に試験場入りする。

点火直前までは、各種の計測機器との通信に問題が無いかなどをチェックしていく。

ちなみに、点火時刻をX(エックス)と呼び、例えば点火5分前であれば、X-5分(エックスマイナス5分)、点火10分後であればX+10分(エックスプラス10分)と呼ぶ。

さらに試験実施の場合は「Go」、不実施の場合は「No Go」といった言葉が試験場を飛び交ったりする。

私が経験した業務は、各種試験装置の電源ON/OFFだったり、計測の開始/終了を所定の時刻に合わせて指示したり、担当業務班の状況をアナウンスするものだった。

このアナウンスというのが、例えるならガンダムなどのアニメに出てくる管制室のイメージそのもので、ヘッドセットをつけて管制(私たちよりも上位の管理班)に状況を伝えていくのだが、このアナウンスは試験場内のスピーカーから作業者全員に聞こえるように放送されるため、滑舌はもとより、正確な情報を発言しなければならないというプレッシャーが半端ないのである。

ただ、アニメのシーンと大きく違うのは、私の目の前には「緊急停止ボタン」が置いてあり、何か異常があれば、その報告の後、このボタンを押さなければならないのである。。。

試験場をご紹介

ここで少し試験場の雰囲気をお伝えしたい。

試験場は秋田県能代市にあり、その正式名称を「能代ロケット実験場」という。西は日本海、東は暴風林といった風景が南北に続く広大なロケーションの一画にある。

能代ロケット実験場
出典:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

各種固体ロケットモータの地上燃焼試験を行うため、1962年に開設され、最大で1kmの保安距離を確保できることから、わが国の宇宙推進エンジンの研究開発にとって、重要な役割を果たしている。

試験場内には、

・極低温推進剤試験棟
・液水器材室
・器材庫
・エンジン試験準備室
・真空燃焼試験棟
・大気燃焼試験棟
・第2計測室
・第1計測室
・研究管理棟

があり、私たちは主に計測室に待機し、時折、真空燃焼試験棟へ出向いては計測機器のセッティングなどの作業を行っていた。

真空燃焼試験棟の内部
オレンジ色の筒の中にロケットが横たわり、筒の内部の空気を抜くことができる
出典:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

施設には簡素ながら展示室があり、事前予約が必要ではあるが一般の方でも無料で見学できる。

この展示室には、ロケットエンジンのカットモデルや解説用のパネルなどが展示されており、日本のロケット開発の歴史を感じられるようになっている。

能代ロケット実験場の展示室

屋外の景色に目を向けると、実験場の西側はすぐに日本海が広がり、その海岸沿いには風力発電の風車がいくつも並ぶ壮観な様子を目の当たりにすることができる。

海岸には波消しブロックなどが置いてあり、作業の合間に潮騒を感じながら休憩することもできる。

試験のスケジュール中はあまり残業は無い雰囲気だったが、それでも残業が必要とされるときは、時間に追われる作業の中でも日本海に美しい沈む夕日を眺め、続く作業への活力を得ることもできた。

後編はいよいよ点火

地上燃焼試験を語るうえで一番面白いのは、やはり点火だろう。

後編では、いよいよその点火の様子をお伝えしたいと思う。

ご期待いただければ幸いである。

 

「地上燃焼試験」体験レポート【後編】はこちら↓

t-miyazoo.hatenablog.com